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関節鏡視下手術

関節鏡視下手術とは

 実用的な関節鏡は1950年代に東京逓信病院整形外科部長の'関節鏡の父'として名高い故渡辺正毅先生によって開発され世界中に広まった。それ以前の関節の手術では大きな切り口を必要とし、それゆえ入院期間も長く患者さんへの負担も大きなものでした。
 当院では、前院長嶋崎雅直が故渡辺正毅先生を師として学び、昭和53年から茨城県内では最初に関節鏡視下手術を取り入れ、基本に忠実な手術を長年数多く行なっています。現在では年間100症例を超える関節鏡視下手術を行なっています。
 近年、さらなる技術が発展し、安全かつ短期入院でより高度な手術も鏡視下で行えるようになりました。
 従来の関節鏡を使用しない手術と比較すると、生理食塩水を流しながら行うので感染症を起こしにくく、非常に低侵襲の手術なので、痛みが少ないため患者さんへの負担も小さい、などの利点があります。 また、美容的観点からも手術後に残る傷跡は非常に小さな傷跡(約5mm)しか残りません。当院では膝関節、股関節、足関節、肩関節、肘関節などの手術に積極的に使用しています。

関節鏡の実際

 皆さんの中には胃カメラを行ったことがある方はたくさんいらっしゃるでしょう。胃の状態が悪い場合胃カメラを使って胃の内部の状態を確認します。これの関節版と思っていただけるといいと思います。この関節鏡を関節の中に挿入し直接内部を観察します。この時病変部があれば、別のから操作する器械を入れてカメラを見ながら手術を行います。
 これが関節鏡です。関節鏡は直径約5㎜の細い棒状のCCDカメラです。カメラの画像はモニターに映し出されます。 皮膚に5㎜程の傷を開けるだけで、カメラを関節内に挿入し関節内の状態を観察することができます。
 上の写真は関節鏡で手術をしている様子と実際の画面です。孔を追加するだけで、手術用のカメラを挿入して関節を切開することなく病変部を修復することが可能になります。

膝関節鏡について

膝関節鏡で取り扱う主な適応疾患は、半月板損傷、前十字靭帯損傷、後十字靭帯損傷、離断性骨軟骨炎、骨軟骨骨折、変形性膝関節症などです。
◆半月板損傷
 半月板は膝関節の隙間にあり、主にクッションの役割をしている軟骨です。内側と外側に一つずつあり、上から見るとC字型をしています。スポーツや日常生活動作の中で繰り返しストレスをかけると断裂してしまうことがあります。(半月板損傷)年齢的な変化に伴って自然に傷んでくることもあります。
(変形性膝関節症) また、円板状半月といって生まれつき通常よりも大きな半月板の人もいて痛みや違和感の原因となることもあります。(円板状半月板損傷)これらが損傷すると痛みが生じます。また膝関節は、手などと異なり体重が直接かかる関節であるため、痛みが直接歩行に影響します。
《手術内容》
 すべて関節鏡視下に行います。関節内の様子はテレビモニターに映し出されます。
ご希望があれば一緒に見ながら関節内の処置を行います。
 皮膚切開は基本的に以下の通りで、非常に低侵襲です。多くの場合には半月板の部分切除を行ないます。損傷の部位・大きさ、また半月板の性状によっては縫合術を行なえる場合もあります。
◆前十字靭帯損傷(断裂)
《前十字靭帯損傷の原因》
 靭帯損傷の原因の多くは、スポーツの際の受傷と交通事故です。スポーツでは、バスケットボール、バレーボールでジャンプから着地した際に痛めることがよくあります。また、サッカーやラグビーなど接触プレーの多い競技でも傷めることがあります。また、スキーもよく靭帯を痛める競技の一つです。
 前十字靭帯損傷の徒手検査は、有名ですが熟練した手技が必要です。非常に多くの患者さんがいるにもかかわらず、残念ながら"膝の捻挫"で済まされてしまい、前十字靭帯損傷の診断を受けられずに膝の痛みや不安感を訴えられている患者さんが多く診察にいらっしゃいます。ぜひお困りの患者さんは受診してみてください。
《靭帯を痛めた時の症状》
 靭帯を痛めた直後はかなり強い痛みと腫れがあります。切れてしまったときには、ブッと音がする時もあります。その後、痛みのために膝が動かせなくなることもあります。数日すると腫れはひき、痛みもとれて膝は動くようになります。しかし、傷めた靭帯がうまく働かないと膝が不安定な感じがします。特に膝を稔る体勢をとったときに、膝がはずれたように感じるときがあります。
《手術の目的・必要性》
 前十字靭帯損傷はある種の装具による保存的治療法によっても治癒する症例があることが報告されていますが、ほとんどの症例で膝関節不安定性が残存してしまいます。

 この状態でスポーツ活動をしたり、激しい労働などをした場合、「膝が外れるような感じ」がしたり「不安定な感じ」、「膝が怖い」といった症状がでます。また、それほど強い外力がなくても再び膝に血液がたまるような怪我を繰り返したりします。そのたび、膝の関節軟骨や半月板を損傷してしまい、このような状態が続くと将来的に変形性膝関節症という日常生活に支障をきたす病態になってしまいます。このようにならないように多くのスポーツ専門医は、活動性の高い前十字靭帯損傷患者さんに手術的な治療を薦めています。
<放置した時の流れ>
 ①膝崩れがおこりやすい→②半月板が損傷する→→(損傷具合が大きくなると)→③軟骨が損傷する→(これまたひどくなると)→④変形性膝関節症になる。
 特に、保存療法を選択し、スポーツを続けた場合にこの可能性は高くなるといわれていますが、スポーツをしなくても、ある程度の可能性はあります。ですから、ご自身の環境が許す限り、再建療法を選択されることをお勧めします。
《手術内容》
 ①手術は、膝関節を大きく開かずにすべて関節鏡(内視鏡)視下に行いますので、外見上(皮膚)の傷は小さいものですみます。非常に低侵襲です。関節内の様子はテレビモニターに映し出されます。ご希望があれば一緒に見ながら手術を行います。

 ②「自家腱」といって、自分の腱を取り、前十字靭帯の付着部である大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)の解剖学的位置に骨孔(骨トンネル)を作成し、その中に腱を通し両端をチタン性金属で固定します。自分自身の靭帯を使うためアレルギー反応はおこりません。
 当院では患者さんのスポーツ種目・レベルにあわせて、ハムストリング(半腱様筋腱)一重束か二重束、もしくは骨付き膝蓋腱を選択し自家腱として使用しています。
 
※半月板の損傷があった場合は必要に応じ縫合もしくは部分切除を追加します。

※脛骨側のスクリューは術後10ヶ月から1年半で抜去します。
 ハムストリング二重束再建術
 ハムストリング一重束再建術
 骨付き膝蓋腱再建術
《術後の経過》
 手術治療はほぼ確立されており、専門医であれば確実に再建できるレベルにあります。ただ、重要なことは手術後に行われるリハビリテーションです。移植した靭帯は術直後には比較的強力ですが、やがて一度弱くなり再び強度を増してくるという特徴を持ちます。その間も安静にするのではなく、移植靭帯に安全なリハビリテーションを行って膝周囲の筋力を増強することが前十字靭帯再建術成功の鍵を握ります。
 当院では、術後¹週間の入院期間を通し、毎日リハビリテーションを行っています。術後2から3ヶ月の間は専用の装具を装着してもらい、移植靭帯を守ります。また、退院後も定期的に筋力を測定してリハビリテーション指導を行っています。目標とする完全スポーツ復帰は、筋力回復にもよりますが、およそ6ヶ月から9ヶ月です。
◆離断性骨軟骨炎
 関節軟骨の一部が軟骨下骨層とともに壊死を起こす疾患です。壊死を起こす原因には、循環障害と外傷が考えられます。発生部位は膝関節、肘関節に多く、股関節・足関節にもみられます。
 膝関節では大腿骨(太もも)の内側顆に好発します。10〜20歳のスポーツをする男性に多く認めますが、中高齢者にも認めることがあります。
 原因としては、先天性の要因も考えられていますが、多くはスポーツ選手に多くみられます。関節面での衝突や繰り返される外力により軟骨下骨の損傷と壊死が生じ、骨軟骨片が離断すると考えられます。
 症状は、初期には軽い膝関節痛を自覚する程度ですが、壊死が進行するにつれて階段の昇降や走ることが困難になります。病巣が離断して遊離体になると膝の引っかかり症状で激痛や可動域制限が起こります。
 診断は、症状とX線所見によりなされますが、MRI、CTなどで詳しい情報が得られます。

 治療は、年齢と進行の程度によって異なります。10歳前後の骨の成長期(成長線閉鎖前)で、骨軟骨片が動いてない初期から中期では、手術は行わず松葉杖を使った免荷療法(負荷をかけないようにする)を長期間行います。
 手術療法では侵襲の少ない関節鏡を使ってのドリリングも有用です。病巣が進行すれば骨釘移植や吸収ピンで骨軟骨片を固定します。すでに離断して長期間たってしまった場合は、骨軟骨片の固定は困難で、骨軟骨片摘出になります。最近は自家骨軟骨移植(モザイクプラスティー)が行われるようになり、手術成績も向上しています。当院においても関節鏡手術にて行なっています。
自家骨軟骨移植
(モザイクプラスティー)

肩関節鏡について

肩関節鏡で取り扱う病気

 肩関節は体重がかからない非荷重関節ですが、他の関節より頑固な疼痛を伴う場合があります。 ここでは肩関節疾患の代表例を示します。
◇肩が痛くて挙げることができない・夜肩が痛くて眠れない⇒肩関節周囲炎・腱板断裂
◇肩が外れそう・以前に肩関節の脱臼をしたことがある⇒反復性肩関節脱臼
について説明します。
◆いわゆる五十肩(肩関節周囲炎)
 「最近肩が痛くて手が上がらないのよ。」「それって五十肩じゃない?」そんな会話をよく耳にします。一般的に中高年の肩痛を五十肩と言います。五十肩と言う言葉は1800年前後、俗語集「俚言集覧」の中に五十腕・五十肩という言葉が使われているのが起源と言われています。特に40歳代から50歳代の人に多く起こるのでこう言われていたようです。その後病態の研究が不十分であったので通俗的病名として使われてきました。
 最近では痛みがあって肩の拘縮があるものに限って"五十肩"と言っています。痛みだけでは五十肩とは言いません。
《肩関節周囲炎とはどんな病気なのでしょうか?》
 肩関節の周りの関節包(関節の袋)・筋・腱・靭帯の炎症を全部含めて肩関節周囲炎と言います。誘因としては外傷、職業・スポーツによる使い過ぎ、長期の固定、心因性障害や糖尿病等の疾患によるものなどがあります。症状は夜寝ると痛くて目が覚めてしまったり(夜間痛)、肩が痛くて腕が上がりにくくなったり、髪を結ったり服を着替えたりといった日常の動作が不自由になるのが特徴です。完全に症状が消失するまでは6~12ヶ月程かかることもあれば、もっと早いこともあり必ずしも一定ではありません。
《治療は?》
 治療は消炎鎮痛剤の内服やリハビリを中心とした保存的治療をまず行います。初期の痛みが強い時は、炎症を止めるステロイド剤や滑りをよくするヒアルロン酸を関節内に注射します。リハビリの基本は、肩を温める温熱療法と肩の動きをよくする運動療法が中心になります。 自分勝手に肩を動かすとかえって炎症が強くなり、逆効果になりかねません。また、五十肩に似たような症状を出す病気に、筋肉の損傷である腱板断裂や石灰沈着性腱板炎という病気があり、五十肩とは治療方法が異なりますので注意が必要です。最近では、診察とMRIで肩の状態がかなり判るようになってきています。また肩関節鏡の進歩で大きく切らずにカメラで手術をすることで、低侵襲で良い成績を収めています。五十肩は何も治療しなかった場合約半数の人が肩の動きが悪いままになったり、肩こりが治らないなど何らかの症状が残ってしまいます。長期間肩拘縮がある場合は鏡視下に関節包を切離する手術を行うこともあります。
◆腱板断裂
 肩を挙げるのに必要な筋肉は大きく言って二種類あります。一つは三角筋(下図のD)や大胸筋に代表されるアウターマッスル(外側の筋群)です。この筋群は直接肩を触ると皮膚の下に筋肉を触れます。
 もう一つがインナーマッスル(内側の筋群)といわれている筋群、これが腱板(下図のRC)です。これら二つの筋群が一緒に動いて肩を挙上します。
 腱板は上腕骨と肩峰(A)に囲まれたせまい所を通るため、ストレスを受けて炎症を起こしやすい特徴があります。外傷を受けたり、ストレスを受け続けると腱板が切れてしまいます。
これを腱板断裂と言います。そうすると下図の通り引っかかり肩の挙上ができなくなります。
《どのような治療をするのでしょうか?》
1.保存的治療(手術をしない治療)

初めはこの治療を行います。高齢者の場合や内科的な病気で手術が難しい場合は特にそうです。
・薬による治療;飲むお薬、シップや塗るお薬で痛みを和らげます。
・注射による治療;軟骨の栄養剤と炎症を抑える薬を注射します。
・リハビリによる治療;ホットパックやお風呂で充分暖めた後で、関節が硬くならないように肩を動かす運動、腕の振り子運動、腱板の筋肉トレーニングを行います。
 
それでも肩の痛みが取れない・肩があがらなければ......
 
2.手術的治療
剥がれた腱板を元の位置に縫い付けます。さらに屋根である肩峰に腱板がぶつからない様に肩峰の一部を削ります。
これらのことを鏡視下で行います。
 
特殊なアンカー(螺子のお尻に糸がついている)で縫合
鏡視像
◆反復性肩関節脱臼
 肩関節は非常に可動域が広い関節ですが,そのために逆に不安定であり,人体の中で最も脱臼することの多い関節です。肩関節脱臼は肩関節の不安定感が主な症状です.典型的には肩関節を挙上や外転したときに不安感を訴えます.脱臼時には痛みがありますが整復されると痛みはありません。
《どうして何度もはずれるのですか?》
 肩の関節は、玉と受け皿の関係になっています。肩甲骨の関節窩が受け皿、上腕骨頭が玉の形になっています。
 通常では,肩甲骨の関節窩を取り囲む関節唇と呼ばれる軟骨や,関節包の内側にある靱帯,腱板筋(肩甲下筋,棘上筋,棘下筋,小円筋)などの働きにより上腕骨頭が安定して運動しています.しかし,転んで手をついたり,スポーツ中に腕を引っ張られたりすることで肩関節の脱臼が生じます。
 ほとんどは前方に脱臼しますが,このとき前方の関節唇や靱帯ときには関節窩の骨までも損傷します。また関節窩縁と衝突するために上腕骨頭の軟骨・骨の損傷も生じます.このために一度脱臼が生じると軽微な外傷などで肩関節が繰り返し脱臼するようになります。
 これ以外に元々体全体の関節が柔らかく(特に若年の女性)、肩関節脱臼を繰り返す人がいます。この場合一部損傷病変があるわけではなく、肩関節全体が柔らかく脱臼するケースです。
 《どのような治療をするのでしょうか?》
手術をしない方法(保存的治療)と手術をしてなおす方法(手術的治療)があります。
 
1.保存的治療(手術をしない治療)
 肩関節の周囲の筋肉を鍛える、筋力トレーニングを行います。
しかし、これでは安定感が得られないケースがほとんどです。
しっかりした安定感を得るには、損傷部位を手術を行って修復するしかありません。
 
2.手術的治療
 鏡視下バンカート法という方法を行います。
これは鏡視下で行うため、周りの筋肉は傷めずに手術を行うため術後の回復は早く良い手術です。3,4個のスーチャーアンカーという固定材料を用い、損傷した部分を修復します。
鏡視下バンカート法
鏡視像
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